すごくまとも

まともな人間でよかった

【未来2018年9月号】ちょこっと感想

800号おめでとうございます

これからもよろしくお願いします。

 

火星もっとも近づく夜に君の部屋訪ねれば我ら火星など見ず/岡崎裕美子

きゅんとしました(素直な感想)。メディアや周囲の人たちは騒いでいるが、火星が大接近しようがふたりには重要なことではない。「我ら」は宇宙人のようだ。あるいは人間として、どんな夜でもお互いのことを惑星以上に思っているふたり。あなたの輝きを見ていた。

 

職員がなるべくつかう階段の ぶんぶん手をふるからね真夏日/「人待ち階段」蒼井杏

節電のためになるべくエレベーターではなく階段を使いましょうという張り紙はよく見る。ショッピングセンターとかビルとか、私が就職した会社にもあった。実際のところどのくらいの人がそれに従っているのかわからないが、職員になった途端、従わなければならない私になる。階段をのぼってゆく人は、どこか遠くに向かうように見える。あの真夏日の別れ際とオーバーラップするのだ。私はぶんぶんと全力で手を振る。お互いずいぶん遠くに来てしまったが、あのときそうできなかったからそうするのである。

 

タグを見るまたタグを見るそのようにしてマネキンの林を抜ける/三輪晃

タグを見る時点でその服をいいなと思っているのだろう。しかし値段を見て手に取るのをやめる、誰にでもある経験が美しい。値札のタグ以外にもサイズか、洗濯表示か。どれにせよ、興味を持ったのに、条件的な何かが自分とマッチしなくてその服と別れることを繰り返す。デザインや機能性のような、服そのものの本質ではない、タグの部分に注目する瞬間。それをいくつも確認しながら、売り場をただ通り過ぎていく。マネキンは林のように群生していて静かだ。